独立して最初の確定申告の時期。私は何もわかっていませんでした。
会社員時代は給与明細を眺めるくらいで、税金のことなんて考えたこともなかった。それが独立した途端、「所得税」「住民税」「事業税」と聞いたことのない請求が次々届いて、正直パニックでした。
私はエステサロンを経営している個人事業主です。30代で会社を辞めて、自宅サロンからスタートしました。独立1年目の確定申告で見事に躓いて、「開業届を出す前に税金のことを調べておけばよかった」と心底思った経験があります。
この記事では、個人事業主が払う4つの税金と、税金ではないけど大きな出費になる社会保険料について、できるだけシンプルにまとめました。当時の私に渡してあげたかった内容です。これから独立する人や、独立したばかりで不安な人の参考になればうれしいです。
目次
個人事業主が払う税金は4種類
会社員時代との違い
会社員のときは、税金は給与から天引きされていました。年末調整で生命保険の控除証明書を出すくらいが、税金に関わる唯一の作業。それで全部済んでいたんですよね。
個人事業主になると、これが一変します。自分の所得を自分で計算して、自分で申告して、自分で納める。「知らなかった」は通用しません。税務署に聞けば丁寧に教えてくれますが、基本的には自己責任の世界です。
4つの税金の全体像
個人事業主が納める税金は、大きく分けて4種類あります。
| 税金の種類 | 管轄 | 税率 | 納付時期 |
|---|---|---|---|
| 所得税 | 国税 | 5%〜45% | 翌年3月15日まで |
| 住民税 | 地方税 | 約10% | 年4回(6月・8月・10月・1月) |
| 個人事業税 | 地方税 | 3%〜5% | 年2回(8月・11月) |
| 消費税 | 国税 | 10%(軽減8%) | 翌年3月末まで |
全員が4つすべてを払うわけではありません。消費税は売上が一定額を超えないと関係ないし、個人事業税も業種や所得によっては払わなくていい。まずは「こういう種類がある」と知っておくことが大事です。
所得税:稼いだ分だけ増える税金
所得税の計算の流れ
所得税は、個人事業主にとって一番メインの税金です。1年間の「もうけ」に対してかかります。
計算の流れはざっくりこう。
- 1年間の売上(収入)を合計する
- そこから必要経費を引く=事業所得
- 事業所得から各種控除(基礎控除、社会保険料控除など)を引く
- 残った金額(課税所得)に税率をかける
所得税は「累進課税」といって、稼ぐほど税率が上がる仕組みです。
| 課税所得 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万〜330万円 | 10% | 97,500円 |
| 330万〜695万円 | 20% | 427,500円 |
| 695万〜900万円 | 23% | 636,000円 |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
たとえば課税所得が400万円なら、税率は20%で控除額が427,500円。400万×20%−427,500円=372,500円が所得税額です。これに復興特別所得税(所得税額×2.1%)が上乗せされます。
「稼いだ金額全部に高い税率がかかるの?」と不安になるかもしれませんが、そうではありません。たとえば課税所得が400万円の場合、195万円までは5%、195万〜330万円は10%、330万〜400万円は20%と、段階的に税率が適用されます。上の表の控除額はこの段階計算を簡略化するためのもので、結果は同じになります。
複雑に見えますが、会計ソフトを使えば勝手に計算してくれるので大丈夫。「だいたいこういう仕組みなんだ」くらいの理解で十分です。
確定申告と納付のタイミング
所得税の納付は、確定申告とセットです。毎年2月16日〜3月15日の間に、前年分の確定申告書を税務署に提出して納めます。
私は独立1年目、この時期の忙しさを完全に甘く見ていました。サロンの仕事をしながら、領収書の山と格闘する日々。今はe-Taxでオンライン提出していますが、当時は紙で出しに行って、税務署の長蛇の列に並んだのを覚えています。
納付方法はいくつか選べます。
- 振替納税なら引き落としが4月中旬になるので猶予ができる
- e-Taxからダイレクト納付すればオンラインで完結する
- クレジットカードでも払える(手数料はかかるがポイントが付く場合も)
- 30万円以下ならコンビニでQRコード納付も可能
個人的には振替納税がおすすめです。確定申告が終わって1ヶ月ほど余裕があるので、資金繰り的にも助かります。
住民税:確定申告すれば届く税金
住民税の仕組み
住民税は、住んでいる自治体に納める地方税です。「所得割」と「均等割」の2つで構成されています。
- 所得割:前年の課税所得×10%
- 均等割:年額5,000円(自治体による多少の差あり)
ざっくり言うと、所得の約10%が住民税として持っていかれます。所得税と合わせると、けっこうな金額になります。
具体的にイメージすると、課税所得300万円の人なら住民税は約30万円。所得税の約20万円と合わせて、税金だけで50万円です。会社員時代は天引きで気づかなかった金額が、個人事業主になると生々しく見えてきます。
住民税は自分で計算する必要がありません。確定申告のデータが自治体に送られて、5〜6月頃に納税通知書が届く流れです。
納付時期と支払い方法
個人事業主の住民税は、年4回の分割払いが基本です。
- 第1期:6月末
- 第2期:8月末
- 第3期:10月末
- 第4期:翌年1月末
一括で納めることもできますが、一括払いでも割引はないので、手元の資金に余裕を持たせたいなら分割で問題ありません。
私は最初の年、6月に届いた住民税の金額を見て目が点になりました。会社員のときは毎月の給与から引かれていたから気づかなかっただけ。まとめて請求されるとインパクトがすごいです。これは覚悟しておいた方がいい。
個人事業税:知らずに届いてびっくりする税金
対象業種と税率
個人事業税は、特定の業種を営んでいる人にだけ課される地方税です。東京都主税局のサイトに対象業種の一覧が載っていますが、法律で定められた70の業種が対象になっています。
税率は業種によって3段階に分かれています。
| 区分 | 業種数 | 税率 | 主な業種 |
|---|---|---|---|
| 第1種事業 | 37業種 | 5% | 物品販売業、飲食店業、製造業など |
| 第2種事業 | 3業種 | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
| 第3種事業 | 30業種 | 5%または3% | 美容業(5%)、医業(3%)など |
私のエステサロンは美容業に該当するので、税率5%。最初に通知が届いたときは「何これ?」と思いました。所得税と住民税だけだと思っていたので、まさか事業を営んでいるだけでもう1つ税金がかかるとは。
ちなみに、ライターやプログラマーなど法定業種に当てはまらない業種は個人事業税がかかりません。業種で明暗が分かれるのは、ちょっとモヤモヤするところではあります。
事業主控除290万円のルール
個人事業税には年間290万円の事業主控除があります。事業所得が290万円以下なら個人事業税はゼロ。開業したばかりで売上が少ない時期は、気にしなくて大丈夫です。
気をつけたいのは、青色申告特別控除との関係。所得税の計算では最大65万円の控除が受けられますが、個人事業税の計算では青色申告特別控除は差し引かれません。「所得税の申告では290万円以下だったのに事業税の通知が来た」ということも起こりえます。頭の片隅に入れておいてください。
年の途中で開業した場合は、290万円を月割りで計算します。たとえば7月に開業なら、290万円×6ヶ月÷12ヶ月=145万円が控除額です。
個人事業税の納付は年2回で、8月と11月。所得税のように自分で計算して申告する必要はなく、確定申告をしていれば都道府県から通知書が届きます。届いた金額をそのまま払えばいいので、計算の手間はかかりません。ただ、8月と11月に突然まとまった金額の請求が来るので、事前に資金を確保しておかないと慌てます。私は1年目、完全にノーマークでした。
消費税:売上が伸びてきたら知っておくべき税金
課税事業者になる条件
消費税は、すべての個人事業主が払うわけではありません。「課税事業者」に該当する場合だけ納税義務が生じます。
基本的な判定基準はシンプルです。
- 2年前(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えたら課税事業者
開業して最初の2年間は、2年前の実績がないので原則として免税事業者になります。売上が1,000万円を超えるようになったら、そこから2年後に消費税の納税がスタート。
「うちはそこまで売上ないし」と思うかもしれません。ただ、インボイス制度が始まってから、この前提がやや変わってきています。
インボイス制度と今後の変化
2023年10月にインボイス制度が始まりました。売上1,000万円以下の免税事業者でも、取引先との関係でインボイス登録を選ぶ人が増えています。
国税庁のインボイス制度解説ページに詳しい説明がありますが、ざっくり言うと、免税事業者のままだと取引先が仕入税額控除を受けられなくなるため、取引に影響が出る可能性があるという話です。
インボイス登録した人向けの負担軽減策として「2割特例」がありましたが、2026年度からは「3割特例」に変更されます。納税額が「売上にかかる消費税の2割」から「3割」に引き上げられる形。この特例も2028年度までの期間限定なので、終了後を見据えて簡易課税制度の検討も必要になってきます。
消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」の2つがあります。簡易課税は売上5,000万円以下の事業者が選べる方法で、実際の仕入れを計算せずに業種ごとの「みなし仕入率」で消費税額を出せます。帳簿付けが楽になるので、小規模な事業者にはありがたい制度です。
私のサロンは一般のお客様が中心なので、インボイスの影響は比較的小さい方。ただ、法人との取引がある人は、登録するかしないか早めに判断した方がいいですね。税理士と相談して決めるのが一番確実です。
税金じゃないけど痛い出費「社会保険料」
国民健康保険と国民年金
税金の話をしていると忘れがちですが、社会保険料もかなりの負担になります。個人事業主が加入するのは「国民健康保険」と「国民年金」の2つです。
会社員時代は健康保険も厚生年金も、会社が半分負担してくれていました。個人事業主は全額自己負担。しかも国民健康保険には「扶養」という概念がないので、家族がいればその分も保険料が発生します。
私が独立したとき、一番びっくりしたのが国民健康保険料でした。前年の会社員時代の所得で計算されるから、独立1年目なのに保険料がやたら高い。「聞いてない」と叫びたくなった記憶があります。
国民健康保険料は自治体ごとに計算方法が異なりますが、年収400万円くらいの個人事業主だと年間30万〜40万円程度になることも珍しくありません。しかも会社員の健康保険と違って、家族を扶養に入れるという仕組みがないので、配偶者や子どもの分も保険料に上乗せされます。
国民年金は月額固定で、2026年度は月17,920円。年間にすると約21.5万円です。付加年金(月400円プラス)を付けると将来の年金受給額が少し増えるので、余裕があれば検討してみてください。
国民健康保険と国民年金を合わせると、年間で50万円を超えることも普通にあります。税金とは別にこれだけの出費があるので、独立前の資金計画には必ず織り込んでおいた方がいいです。
社会保険料控除で税金を減らせる
救いがあるとすれば、社会保険料は全額が所得控除の対象になること。確定申告で国民健康保険料と国民年金保険料を申告すれば、その分だけ課税所得が下がり、所得税と住民税が安くなります。
国民年金は口座振替で前納すると少し割引があるし、控除証明書も届くので申告の手間も少ない。こういう小さな積み重ねが、年間の負担を少しずつ軽くしてくれます。
最低限やっておきたい節税の基本
青色申告は迷わず選ぶ
個人事業主の節税で最も効果が大きいのが青色申告です。開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を出しておけば、最大65万円の特別控除が受けられます。
65万円の控除は本当に大きい。課税所得が330万〜695万円の人なら、所得税率20%×65万円=13万円の節税効果。住民税10%も合わせると年間約19.5万円の差になります。
私は独立1年目、白色申告で出してしまいました。2年目から青色に切り替えましたが、あの1年分の控除を取りそこねたのは今でも後悔しています。これから開業する人は、開業届と一緒に出してください。絶対に。
青色申告には、赤字を3年間繰り越せるメリットもあります。開業初年度は設備投資で赤字になることも多いので、翌年以降の利益と相殺できるのは心強い。
ただし、65万円の控除を受けるにはe-Taxでの電子申告か電子帳簿保存が条件です。紙で提出すると控除額は55万円に下がります。e-Taxの初期設定はちょっと面倒ですが、一度やってしまえば後は楽なので、最初に頑張っておく価値はあります。
経費の計上を漏らさない
もう一つの基本が、経費をきちんと計上すること。事業に関わる支出を漏れなく経費にすれば、それだけ課税所得が減ります。
サロン経営の私の場合、こんなものが経費になっています。
- 施術用の化粧品、タオル、消耗品
- 店舗の家賃と光熱費
- 研修やセミナーの参加費
- 業務で使う車のガソリン代や駐車場代
- ホームページの維持費や広告費
自宅の一部を仕事に使っている人は「家事按分」も活用できます。仕事に使っている面積や時間の割合で按分するのが一般的で、たとえば自宅の30%をサロンに使っているなら家賃の30%が経費になります。
よくある失敗は「面倒で領収書を溜め込んでしまう」こと。これ、私もやりました。年末にまとめて整理しようとして挫折するパターンです。会計ソフトにこまめに入力するか、最低でも月に1回はまとめる習慣をつけた方がいい。後からやると本当につらいです。
最初のうちは「これ経費にしていいのかな?」と迷うことが多いと思います。そういうときこそ税理士の出番。私も自力で全部やろうとして結局わからないことだらけでした。年に数回でも相談できる税理士がいると、安心感がまるで違います。
まとめ
個人事業主が払う税金は、所得税・住民税・個人事業税・消費税の4種類。それに加えて、国民健康保険と国民年金の社会保険料がかかります。
全部を完璧に理解する必要はありません。「どんな種類があるか」「いつ届くか」「どんな仕組みで計算されるか」。この3つをざっくり押さえておくだけで、初めての確定申告の混乱がだいぶ和らぎます。
私も最初は何もわからないスタートでした。今は税理士の力を借りて毎年の申告をこなしています。完璧じゃなくても、知ろうとする姿勢があれば大丈夫。これから独立する人は、税金の全体像だけでも頭に入れておいてください。きっと、あの頃の私より数倍マシなスタートが切れるはずです。
